【社労士が解説】残業代未払いで請求された実例と会社が取るべき対策

労務トラブル防止

先月、知人の30代社長からこんな連絡がありました。

「元従業員から残業代の請求書が届いた。金額を見て震え上がった…」

その請求額は320万円
従業員数15名の小さなIT会社で実際に起きた出来事です。

画像

「うちは従業員20名未満だから大丈夫」
「残業はそんなにさせていないから心配ない」

そう思っている経営者の方は多いかもしれません。
しかし、その油断こそが最も危険です。

今日は経営者や人事担当者に向けて、未払い残業代の脅威についてお伝えします。


第1章|小さな会社ほど危険な「残業代未払い」の現実

実際にあった中小企業での残業代請求事例を紹介します。

建設業(従業員12名): 280万円の請求(2年分)
飲食業(従業員8名): 150万円の請求(1年8ヶ月分)
製造業(従業員18名): 420万円の請求(2年分)
小売業(従業員6名): 95万円の請求(1年分)

これらはすべて従業員20名未満の会社での事例です。

なぜ小さな会社で残業代未払いが多発するのでしょうか?

画像

1. 労務管理がずさんになりやすい

  • 就業規則が古い、または存在しない
  • タイムカードの打刻が形骸化している
  • 残業の承認制度が整っていない

2. 「家族的経営」の落とし穴

  • 「みんな頑張ってくれているから」で済ませる
  • 法律上の線引きが曖昧
  • 退職時に関係が悪化し、一気に請求される

3. 専門家チェックが入らない

  • 労務顧問を契約していない
  • 問題発覚まで放置されがち
  • 法的対応が分からず後手に回る

このように、小規模企業ほど「残業代未払いの温床」になりやすいのです。


第2章|今すぐチェック!危険度診断

以下の項目、いくつ当てはまりますか?

✅タイムカードの時刻と実際の退社時刻が違うことがある
✅持ち帰り残業の時間を記録していない
✅早朝出社の時間を残業として計算していない
✅休憩時間中の電話対応やメール返信がある
✅36協定を締結していない、または内容を把握していない
✅就業規則の残業に関する規定が曖昧
✅残業代の計算方法に自信がない 
✅ 従業員から労働時間について質問されたことがある

  • 0〜2個:比較的安全。ただし油断は禁物
  • 3〜5個:黄信号。早めの改善が必要
  • 6個以上:赤信号。今すぐ専門家に相談を!
画像

第3章|間違いやすい残業代計算のポイント

多くの企業が残業代を誤って計算しています。よくあるミスを解説します。

1. 基本給だけで計算している

→ 各種手当(役職手当、職務手当など)も含める必要あり。

2. 月平均所定労働時間を誤っている

→ 会社ごとに異なり、必ずしも173.8時間とは限りません。

3. 割増率を間違えている

  • 通常残業:25%増
  • 深夜残業:25%増
  • 休日出勤:35%増
  • 深夜+休日:60%増

4. 切り捨て計算をしている

→ 30分単位の切り捨ては違法。1分単位で計算が必要です。

正しい計算方法の例

時間単価 = (基本給 + 各種手当)÷ 月平均所定労働時間
残業代 = 時間単価 × 1.25 × 残業時間

【例】月給30万円、月平均所定労働時間170時間、月30時間残業の場合:

  • 時間単価:30万円 ÷ 170時間 = 1,765円
  • 残業代:1,765円 × 1.25 × 30時間 = 66,187円

正しく計算すれば、未払いリスクの大きさが見えてきます。

画像

第4章|残業代請求を受けたときの「最悪のシナリオ」

もし未払いが発覚したら、
どのくらいの金額を支払うことになるのでしょうか。

例:月30時間の未払い残業(時給換算1,500円)の場合

  • 月額未払い残業代:30h × 1,500円 × 1.25 = 56,250円
  • 2年分:56,250円 × 24ヶ月 = 135万円
  • 付加金(裁判で認められる場合):135万円
  • 合計:270万円 + 遅延損害金 + 弁護士費用

経営への影響は計り知れません。

  • 資金繰りの悪化
  • 他従業員への波及(連鎖請求)
  • 金融機関・取引先の信用失墜
  • 人材採用の困難化

冒頭の知人の会社も、
最初の320万円支払い後に追加で2名から請求され、
最終的に800万円超を支払うことになりました。

画像

第5章|残業代未払いを防ぐために今すぐできること

1. 労働時間の実態把握

  • 1週間だけでも従業員の実労働時間を記録
  • タイムカードと業務実態を照合
  • 持ち帰り作業やメール対応も含める

2. 簡易計算でのリスク把握

  • 自社の残業代を試算
  • 未払いリスクの金額を把握する

3. 専門家に相談すべきタイミング

  • すでに請求を受けている
  • 大きな未払いが判明した
  • 36協定・就業規則に不備がある
  • 従業員から労働条件について質問を受けている

まとめ|「残業代未払い」は中小企業の経営リスクそのもの

✅ 残業代未払いは時限爆弾
✅ 放置すれば金額は雪だるま式に増加
✅ 経営の存続に直結する可能性もある

一方で、適切な労務管理を行えば

✅ 従業員との信頼関係が向上
✅ 生産性アップにつながる
✅ 経営リスクを大幅に軽減できる

少しでも不安を感じたら、今すぐ専門家に相談してください。

「残業代の計算方法を確認したい」
「36協定をどう作ればいい?」
「うちの会社、該当するのか不安…」

そのような段階でも問題ありません。
30分の相談で、労務リスクを大幅に下げることが可能です。

「残業代未払い」は会社の未来を左右する重大なテーマ。
後悔する前に、一歩早めの対応を取りましょう。