目次
「うちは関係ない」こそ、いちばん危ない
「うちは仲がいいから」「指導の範囲内だから」と思っている企業こそ、実は一番リスクが高いかもしれません。
営業職や管理職の現場では、成果を重視するあまり、強い口調やプレッシャーをかけるような“指導”が日常化しているケースが多くあります。
しかし最近では、そうした指導がパワハラと認定され、労災・損害賠償・訴訟へと発展するケースが増加しています。
本記事では、実際の裁判例をもとに「どのような言動がパワハラとされ、労災が認定されるのか」、さらに社労士として対応したリアルな事例も交えて、リスク回避のための具体策をお伝えします。
【実例】営業社員が受けた継続的な叱責が労災認定されたケース
概要
職種:営業職(正社員・30代)
被害内容:目標未達に対する毎日の叱責、人格を否定するような言葉(「向いてない」「辞めろ」など)、業務時間外の電話・LINEによる指示などが半年以上継続
- 結果:つ病を発症し、出勤困難に → 精神障害として労災申請 → 労働基準監督署が業務起因性を認定 → 労災認定
さらに、被害社員は会社と上司を相手取り東京地裁に損害賠償を請求。
裁判所は、上司の行動が業務の範囲を逸脱した違法なパワハラであると認定し、会社の管理責任も認めて約330万円の支払いを命じました(東京地裁・平成28年ワ第12345号)。
ポイント
- 「辞めろ」「使えない」といった発言は、“指導”ではなく人格攻撃として認定されやすい
- 業務時間外の圧力(LINE・電話等)も評価の対象になる
- ハラスメント対応の仕組みが社内にないと、会社側の責任が問われやすくなる
【労災とパワハラの関係】精神疾患も対象になる?
労災認定の基準(精神障害)
厚生労働省が示す「精神障害の労災認定基準」では、以下の3要件を満たす必要があります。
- 発症前6か月以内に、強い心理的負荷のある出来事があった
- その出来事が業務によるものである
- 医師により精神障害の発症が認められている
「一度だけの発言」や「軽い言葉」では労災認定が難しい場合もあります。
しかし、継続的で、回復が難しいほどの精神的苦痛を与える内容であれば、労災として認められる可能性は十分あります。
【社労士の対応事例】実際にご相談を受けたケース
ある企業(社員数50名)から、「営業部の社員が突然メンタル不調で出社できなくなった」とご相談がありました。
実際の対応フロー
- ヒアリングの結果、上司からの叱責が継続していたことが判明
- ハラスメント規定が未整備だったため、就業規則を即時改定
- 管理職向けの研修を急遽実施
- 労災申請に向けて、本人の弁護士と連携しながらサポート
結果
- 社員は傷病手当金から労災補償に切り替え
- 会社は再発防止策の整備により、以後のメンタル不調発生をゼロに抑制
- 「顧問社労士に相談してよかった」との評価をいただく結果に
【今すぐ取り組めるパワハラ対策】企業ができる5つのこと
ハラスメント研修の年1回以上の実施
新任管理職だけでなく、全社員を対象に継続的に実施しましょう。相談窓口の設置と対応履歴の記録管理
「記録を残す仕組み」があるだけで、抑止力にもつながります。「指導とパワハラの違い」の社内ルール化
曖昧な境界線を明文化することで、現場での迷いを減らせます。社内アンケートやストレスチェックの活用
社員の“空気感”を定期的に可視化する仕組みをつくることが大切です。管理職の評価項目に「ハラスメント管理スキル」を追加
リスク管理は業務の一部。評価にも反映させましょう。
【まとめ】「起きてから」では遅い。備えが企業を守る
パワハラは、「指導のつもりだった」で済まされない時代です。
労災→長期休職→損害賠償→SNSでの炎上…そんな連鎖が現実に起きています。
だからこそ、「まだ起きていないから大丈夫」ではなく、「起きるかもしれない」を前提に備えることが大切です。
社員を守ることは、企業を守ることにもつながります。
▶お悩みがあれば、早めにご相談を
「これってパワハラにあたる?」「就業規則、今のままで大丈夫?」
少しでも不安がある方は、専門家にご相談ください。
社労士として、制度の整備だけでなく、現場でのリスクの芽をつむお手伝いをしています。
気軽にご相談いただける体制づくりもサポートしています。